麒麟新聞Giraffe Magazine
満月の日に発行する現在進行形の民間伝承誌
A live folklore magazine, published on every full moon.
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2026-05-31

ハレ

vol.5 5月号 特別号
今号は宴特別号である。 宴というのは、下北沢にある Bar Giraffe や SOY-POY、そしてその周辺に広がる境界の曖昧な繋がりの集大成として執り行われる年に一度の祭り。毎年、山梨県・平林の山あいにある〈Little North Camping Ground〉で開かれている。そして、今号のテーマである『ハレ』は非日常や祝祭を意味する民俗学の用語で、4月号に取り上げた日常を意味する『ケ』に対応している。創作や表現と戯れながら、生活の実感を互いに共有している小さな共同体の活動を、現在進行形の民間伝承のように捉えてみる。この新聞のそんな試みにおいて、ハレ・祭りは重要な出来事である。 私たちは普段、東京・下北沢を拠点に都市に集まりながら、定期的に山梨・平林を往復する。日常のエネルギーを自然の中に持ち寄り、祝祭の薪に火を焚べる。これは古来から共同体を存続させることにおいて欠かせない営みであった。開催地である平林は、富士川の流れる谷、縄文の遺跡がいくつも眠る土地だ。人が集まり、火を焚き、祈る。そのくり返しは、おそらく一万年以上も前から続いている。 宴の数日間、そこはひとつの村のようだった。まるで原初の生活を営む集落であり、同時に、伝承が生まれていく母体としてのムラ。自然のなかに入ると、忘れていた身体知のようなものが戻ってくる。火の起こし方、風の感じ方、鳥の鳴き声の聴き分け方。頭で覚えたのではなく、身体がもとから知っていたことを、土と煙の匂いのなかで思い出していく。 表現も、創作も、たぶんその延長にある。歌うこと、語ること、つくって誰かに見せること。特別な才能などではなく、もっと昔から生活に馴染んでいた所作だったはずだ。火を囲んで誰かを笑わせる。自分が何者かを名乗る。いまの私たちの活動も、そこから地続きに伸びている。薪を焚べたり、肉を焼いたり、コーヒーを入れたり。何かを差し出せば、その人にしか担えない役割が生まれる。役割が生まれれば、居場所ができる。それは固定されたものではなく、その場に立ちあがっては、また次の誰かへ渡っていく。そうやって、人の営みは受け継がれてきた。 ここでは、あなたがどんな仕方で存在していてもいい。料理する人、火を焚く人、歌う人、眠る人。受け取る人、見送る人、ただ、いる人。どれも同じように、その場をかたちづくっている。そうしてできあがった場が、ある夜、ひとつのうねりになる。火のまわりに声があがり、知らなかった者どうしが名前を呼びあう。自分たちは、たしかにここにいる。私たちは生きている。息を吸いこみ、吐き出す。その身体のリズムと同じうねりが、集団そのものを動かしていく。生を謳歌すること。命を祭り上げること。それがハレなのだと思う。 本号の写真には、宴で交わされた営みが収められている。そこにちいさな動詞を添えた。囲む、焚べる、歌う、眠る、など。どれも、人が一緒にいるための、古い言葉たちだ。そのひとつひとつの行為が、ハレの瞬間、「記憶」をつくっている。
編集長 勝俣泰斗